KADOKAWA Technology Review
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航空機「電化」に賭ける夢、
高出力の新電池開発を目指す
材料科学者たち
Simon Simard
カバーストーリー Insider Online限定
A powerful new battery could give us electric planes that don’t pollute

航空機「電化」に賭ける夢、
高出力の新電池開発を目指す
材料科学者たち

温室効果ガスの排出量を抑えるため、電気飛行機の実現が大きな課題となっている。電気飛行機には、エネルギー密度が高いだけでなく、離陸時の数分間にわたって大量の電力を供給できる電池が必要となる。マサチューセッツ工科大学とカーネギー・メロン大学(CMU)の研究者らは、離陸に必要な放電スピードを持つ電池の開発に取り組んでいる。 by James Temple2019.01.24

マサチューセッツ工科大学(MIT)のイェット‐ミン・チェン教授のオフィスの2面の壁には、鮮やかな色の分子模型が並べられている。いくつもの電池関連企業を相次いで創業したチェン教授(材料科学)は、モデルの分子配列のわずかな変化がエネルギー貯蔵量をどれだけ劇的に変えられるかについての研究にキャリアのほとんどを費やしてきた。

SDGs Issue
この記事はマガジン「SDGs Issue」に収録されています。 マガジンの紹介

だが、チェン教授と、研究仲間であるベンカット・ビスワナサン助教授は、別のアプローチで次なる目標を目指している。電池の構成ではなく、電池内の化合物の配列を変更するアプローチだ。リチウムイオンが電極内を通過する際の曲がりくねった経路を、磁場を加えてまっすぐにしてやれば、電池の放電速度を大幅に高められるだろうと2人は考えている。

この電力を使えば、従来の電池では足りなかった旅客機離陸時の高出力を満たし、電池の新しい使い道が開けるかもしれない。もしも期待通りに動作すれば、燃料を燃焼したり、排気ガスを排出したりしない地域型近距離小型旅客機が実現するかもしれない。

研究プロジェクトを開始し、主導しているのが、カーネギーメロン大学(CMU)機械工学部のビスワナサン助教授だ。ビスワナサン助教授とチェン教授は、チェン教授が2010年に共同設立したリチウムイオン電池メーカーの24M(「伊藤忠と京セラ出資、MIT発の半固体電池ベンチャーが量産化へ

」参照)や、ワシントン州ボッセルに拠点を置く飛行機のスタートアップ企業ズーナム・エアロ(Zunum Aero)と協力して、先進的なハイブリッド飛行機の要求を満たすように特別に設計した試作電池を開発している。

いちかばちか

気候変動の問題に関するもっとも難しい課題の1つは、飛行機から排出される温室効果ガスの排除だ。航空輸送は、世界の二酸化炭素排出量の約2%に達し、もっとも急激に増加している温室効果ガス排出源の1つだ。

だが、電気自動車用の電池は、依然として高価で重く、飛行に適していない。そのため、現在、航空輸送にとって、化石燃料に頼る以外の明らかな選択肢はほとんどない。

ウーバー(Uber)や、エアバス、ボーイングなど10社以上の企業が、すでに小型飛行機を電化する可能性を模索しており、1回の充電で約100マイル(161キロメートル)の飛行が可能な空飛ぶタクシーを作り出そうとしている。こういった1〜2人用の飛行機(ほとんどの場合、自律型の垂直離着陸機)により、通勤時間の短縮や、渋滞の緩和、飛行機からの温室効果ガス排出量の削減が期待されている。だが、こういった自律型飛行機のほとんどは、富裕層の乗用車利用を置き換えるだけで、航空輸送の代わりにはならないだろう。

ビスワナサン助教授とチェン教授は、より高みを目指している。計画の第1段階は、12人乗りの飛行機で、たとえばサンフランシスコからロサンゼルスや、ニューヨークからワシントンなど、400マイル(644キロメートル)の距離を飛行するだけの電力を供給できる電池の開発だ。第2段階では、50人の乗客を乗せた電気飛行機を同じ距離だけ飛ばせる電池を目指す。

こういった電気飛行機は依然として、燃焼機関や燃料を搭載するだろう。だが、搭載する燃料の大部分は、安全性確保を目的とした米連邦航空局の「予備燃料搭載要件」を満たすためのものになるだろう。この要件は、主に目的地から200マイル(322キロメートル)離れた空港に着陸するのに十分な量を想定している。通常の飛行では、飛行機はこの燃料を利用する必要はない。

航空機搭載用電池

ズーナム・エアロのようなスタートアップ企業にとって、このプロジェクトの魅力は明白だ。電池が飛行機のニーズを満たすことができれば、ハイブリッド飛行機や電気飛行機の市場の可能性が広がる …

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