アルファベット傘下のウェイモ(Waymo=グーグルの兄弟会社)は、自動運転車開発の先駆け的な企業だ。2005年のDARPAグランド・チャレンジ(ロボットカー・レース)に参加していたスタンフォード大学の研究チームが中心となって、2009年にグーグルの一部門として設立。2016年に分社化して現在のウェイモとなった。
2012年にはネバダ州で自動運転車専用のライセンスを初めて取得し、その後、フロリダ州やカリフォルニア州でも公道実験を実施している。2018年3月にはアリゾナ州フェニックス郊外で、セーフティ・ドライバーが同乗しない、一般向けの完全無人タクシーの試験運行を開始。10月には、公道での自律自動車の走行距離としては世界最長となる1000万マイル(1610万キロ)を達成したと発表して世間を驚かせた。
走行継続距離で圧倒、ハードウェアも自前で開発
ウェイモの実力が現れているのは、走行距離だけではない。「現時点で、自動運転の能力を比較できる標準的な指標はない」としながらも、ウェイモの「自動運転の平均走行持続距離」に注目するのが、金沢大学の菅沼直樹准教授だ。菅沼准教授は20年前から自動運転の研究に取り組み、2015年に国内の大学として初となる市街地での公道試験を実施したパイオニアである。
ウェイモなどが公道試験を実施しているカリフォルニア州では、公道試験を実施する事業者に対して総走行距離と自動運転からの離脱(Disengagement)回数の報告が義務付けられている。各社が提出した報告書のうちウェイモの2017年の報告書を見ると、公道での総走行距離は35万2544.6マイル(約56万7364キロ)で、離脱回数は63回。平均走行持続距離に換算すると約9005キロとなる。ウェイモに次ぐGM傘下のGMクルーズの平均走行持続距離が約2018キロだから、突出した数字だ(GMクルーズは先日、ホンダとの提携を発表している)。
こうしたウェイモの強みについて、菅沼准教授はソフトだけでなくハードも自社開発していることにある、との見方を示す。現在のウェイモが使用している車体は市販車(クライスラー・パシフィカ)を改造したものだが、「公開されている情報から分かる範囲でも、自社で設計・開発したと見られるセンサーなどのハードウェアが使われている」という(ウェイモはレーザーによる画像検出・測距センサーであるLIDAR=ライダー=を自社開発していることを公表している)。一般にグーグルといえば、人工知能(AI)のソフトウェアの技術力をベースに自動運転に取り組んでいると思われているが、真の強さはハードとソフトの両輪を自社で手がけていることにあるわけだ。
「ソフトウェア・エンジニアリングの集団だと思っていたグーグルがハードウェアまで作り出した。だから、自動車関連企業には焦りがあるのです」。
ウェイモは自動車メーカーとして日本企業を脅かす可能性はあるのだろうか? ウェイモのジョン・クラフチクCEO(最高経営責任者)は「車両を製造することはない」といまのところ明言している。では、現在北米で展開している自動運転タクシー事業はどうか?
菅沼准教授は、「米国でウェイモがすごいのは事実でしょうが、それをそのまますぐに日本に持ち込めるかどうかは別問題でしょう」と話す。たとえば、各社が公道試験を実施する「自動運転の聖地」アリゾナ州フェニックスは温暖な気候で知られ、雪はほとんど降らない。「現在の自動運転車はあらゆる環境で走行できるものではありません。雪や大雨が降れば物理的に『見えない』状態になる。見えない状態では自動運転車は走行できず、ハードウェアの進歩はまだまだ必要です」。
道路状況の違いも障壁だ。郊外の広い幹線道路と歩行者が行き交う市街地の道路では「走りやすさ」に大きな違いがある。走行距離や走行持続距離に対する評価も、どんな道をどれぐらい走行できるのかによって、変わってくる。海外で実績を積んだウェイモとて、日本の道路事情に適合するには時間がかかるというわけだ。
日本政府は6月に発表した「未来投資戦略 2018」で、2020 年を目途に無人自動運転移動サービスを開始するとの目標を掲げている。だが、これはあくまでも「地域限定型」だ。自動運転の専門家らは、「あらゆる場所や道路を自律的に走行できる完全自動運転車の開発にはまだ何年もかかる」との共通した見方を示している。
世界中の自動車メーカーや大学、ベンチャー企業がそれぞれのアプローチで自動運転車の開発やサービスに取り組む中、日本の勝ち筋はどこにあるのか? 11月30日に開催するMITテクノロジーレビュー主催の「Future of Society Conference 2018」では、菅沼准教授はじめ、国内のメーカーや大学の研究者が集い、技術から法制度、都市設計まで、自動運転がもたらす未来について、多面的な議論をお届けする予定だ。
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- 小橋川誠己 [Motoki Kobashigawa]日本版 編集者
- MITテクノロジーレビュー[日本版]編集部所属。