テキサスで大成功の風力発電 どこも真似できない例外事例
風力発電は、化石燃料の中心地だったテキサス州を変えた。米国の他の州や世界各地は、この変化を再現できるだろうか。 by Richard Martin2016.10.04
ローラン・ペティは、ブーツのつま先を泥に突っ込んだまま、焼け付くようなテキサスの日差しを見上げた。ペティが「祈りの畑」と呼ぶ灌漑されていない綿花畑を見て「雨が降ることを祈るほかない」といった。
雨が降らなかった場合、ペティには土地の賃貸料という補助的な収入源がある。見渡す限りの周囲には、コンバインや整然と生い茂り、綿の木の上方約45メートルの高さに、風力発電機が木々のようにそびえ立っていた。テキサス州西部のペティの土地は、430基の発電機が約189平方kmにわたって広がる巨大なホースホロー風力エネルギーセンターの端に位置する。風力エネルギーセンターは、2006年の完成当時は世界最大の風力発電所だった。ペティ一家は、ホースホローと、地域の別の発電事業者に土地を貸し出し、数十基の発電機1基につき年間7500ドルの収入を得ている。風力発電は、ペティ家だけでなく、テキサス州の多くの地主にとって大きな収入源になりつつある。ローランとその両親、さらに3人の兄弟は、降雨量に関係なく数十万ドルもの収入がある。だが、米国史上最大ともいえる規模で再生可能エネルギーが普及するなか、ペティ農場は小さなプレイヤーに過ぎない。
テキサス州は、発電容量が1万8000メガワット近く、ひとつの国に見立てた場合、スペインに次いで世界第6位の風力発電国だ。現在テキサス州では、発電容量をさらに数千メガワット増やし、カリフォルニア州全体の風力発電容量に相当する発電量を実現することを目指して準備中だ。発電機の大半は、テキサス州西部にある。米国本土でもとりわけ風が強く荒涼とした地域だ。風力発電の普及に向けた準備が始まった15年前、この地域にあったのは、綿や穀物の農場、油田、雑木林と干上がった川床、そしてさびれかかった小さな町だけだった。
現在、テキサス州西部はハイウェイと地主に収入をもたらした白く細長い発電機が立ち並ぶ土地になっている。強い風が吹き続ける夜間には、大きな翼が回転するときに発するシューシューというかすかな音が聞こえてくる。 ひと昔前には文字通り枯渇していた町に、風力は繁栄をもたらした。「風力発電機がなければ、この地域の多くの人々は、2011年の干ばつで破産申請していたでしょう」。ローランの兄弟のひとりで、この地を車で案内してくれたラス・ペティはそういった。
「風力発電機のおかげで、私たち一家はこの土地を手放さずに済んだのです」
大きな州がしかるべき政策と適切なインフラ投資を実施すれば、大きな混乱を生じることなく再生可能エネルギーから相当量の電力を得られることがわかった。米国エネルギー省の2015年の報告「ウィンド ビジョン」では、2050年までに米国内の全電力供給の35%を風力でまかなう目標が掲げられている。現在、風力による電力供給は全体の4.5%だが、テキサス州では、すでにこの数値目標を超える日が時々ある。冬季の風が強い日には、州の電力供給量の40%を超える電力が風力で容易に供給できているのだ。風力発電の推進派にとってテキサス州は、米国全土のモデルとなっている。
しかし、テキサス州では風力発電の難点も明らかになっている。全体的にみると、風力による電力供給は、テキサス州の発電容量の20%未満にとどまっている。風の弱い夏の暑い時期には、この割合が1桁台前半まで落ちる。また、風力発電の普及にもかかわらず、最新データが明らかになっている2013年のテキサス州の推定二酸化炭素排出量は、国内最高で、前年比5%増だ。
さらに、テキサス州における風力発電の普及促進を支えている条件は、容易には真似できない。テキサス州は、定常風に恵まれているだけでなく、ほかの大半の州にはない要素として、荒涼とした西部と北部から、ダラス、オースティン、サンアントニオ、ヒューストンなど南部および東部の大都市に電気を供給するために作られた巨大な送電網がある。「風力発電好適地」(CREZ:Competitive Renewable Energy Zones)というプログラムの下、2007年に送電網構築が承認され、70億ドル近い建設費が投じられたことで、一般家庭の電気料金は数ドル値上げされたが、ほかの州では考えにくい、あるいは不可能な長期的なインフラ投資が実施されたのだ。
この夏、1930km弱を車で移動し、アビリーンからアマリロ、そしてその間のたくさんの場所を巡ってテキサス州の風力発電の普及を取材した。今なお進行中の風力発電の拡大を加速させている要因が何なのか、そして究極的な限界がどこにあるのかを理解したいと考えたのだ。テキサス州の発電網は、経済的、物理的にどれほどの風力を活用できるのだろうか。 さらに、ほかの州や国では、テキサス州と同じように風力発電の普及を達成できるのか、あるいは、他の地域では再現することが難しい、または不可能な条件が、テキサス州では満たされているのだろうか。
可能性の開拓
ガイ・ペインは、風力発電普及の受益者の1人だ。刑務所の看守をしていたペインは、バスを運転していた(服役囚の輸送を担当していた)ときに、「風力発電機を見かけるようになった」という。2003年、刑務所の仕事をやめた友人から、風力エネルギーの魅力について聞かされた。無料の研修が受けられ、支払い条件、収益性が良く、作業は屋外で、囚人から襲われる恐れもない。カリフォルニア州テハチャピのゼネラル・エレクトリックで6カ月間の研修プログラムを受けたのち、ペインは発電機技術者になった。電気技師、整備士、タワークライマー、緊急時の第一対応者など、多くの役割を担う職業だ。ペインは現在、風力発電ディベロッパーのインベナジーの技術者65名を監督し、複数の発電所で作業にあたっ …
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