遺伝子ドライブでマラリア蚊を「絶滅」、英研究チーム
性別を変異させるDNAを蚊の遺伝子プールに解き放つと、ブンブン音を立てる蚊でいっぱいだったケージは「崩壊」し、死に絶えた。英国の研究チームはこの「遺伝子ドライブ」と呼ばれるテクノロジーを使って、いずれマラリアを媒介する蚊をアフリカで絶滅させたいと考えている。
ロイター通信によると、蚊が媒介するマラリア原虫は、2016年に世界で約2億1600万人をマラリアに感染させ、うち44万5000人を死に至らしめた。ワクチンは存在しない。
遺伝子ドライブは、動物が繁殖するにつれて通常よりも速く拡散する人工の遺伝構成物だ。要するに、野生生物の間に遺伝子変異を拡散する技術なのだ。
英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)の研究チームは遺伝子ドライブを利用して、蚊が雌雄どちらになるかを決める遺伝子の劣化コピーを拡散したという。劣化コピーの遺伝子は雌の蚊に作用し、人を刺したり卵を産んだりできない雌雄同体に変異させる。この研究結果は9月24日、ネイチャー ・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)誌で発表された。
実験はケージの中で実施された。研究チームの発表によると、8世代後に子孫を残せる正常なメスの蚊はいなくなり、ケージ内の蚊は全滅したという。インペリアル・カレッジで 「ターゲット・マラリア」と呼ばれているこのプロジェクトは、 ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団から7000万ドル超の資金援助を受けている(「ゲイツが蚊の根絶に出資、反対の環境保護団体も」および「遺伝子ドライブによるマラリア蚊絶滅計画がアフリカで準備中」を参照)。
主任生物学者のアンドレア・クリザンティ教授は、遺伝子ドライブの蚊の実験を屋外で実施するまでには、あと5年から10年かかるだろうと話す。「私は、蚊を、マラリアを媒介する病原体と見なしています。病原体であれば、絶滅させて然るべきでしょう」とクリザンティ教授は、米国の非営利・公共ラジオネットワークであるナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)で語った。「人類は天然痘などのウィルスを撲滅してきました。現在はポリオを駆逐しようとしています。マラリアを媒介する蚊を撲滅することに大きな違いはありません」。
遺伝子ドライブにリスクはないのだろうか? 生殖を活用した遺伝子の毒殺は影響される種が1つに限定されるため、殺虫剤よりも正確に効く(ターゲット・マラリア計画に関する背景は、MITテクノロジーレビューの2016年の特集「The extinction invention」を参照)。