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利用者の半数が受診をやめた
AIチャット・ドクターは
医療費抑制の切り札になるか
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Your next doctor’s appointment might be with an AI

利用者の半数が受診をやめた
AIチャット・ドクターは
医療費抑制の切り札になるか

日本と同様に高齢化が進む英国では、医療費の抑制が課題だ。そこで現在、ロンドンでは約4万人が、医師に代わって患者を診断する人工知能(AI)チャットボットのアプリを利用している。AIが診断することで、自己治療で済む人々が病院に行かなくなり、医師の過重労働を軽減し、医療コストを削減できるという。 by Douglas Heaven2018.11.12

「胃が痛くて死にそうです!」

AI Issue
この記事はマガジン「AI Issue」に収録されています。 マガジンの紹介

「それは大変ですね」と、女性の声が答える。「いくつか質問をしますが、答えていただけますか」。

診察の始まりだ。どこが痛むのか?どれほど痛いのか?痛くなったり和らいだりするのか? 少し間が空き、診断が下される。「消化不良のようですね。消化不良とは、胃もたれの医学用語です」。

医師がしゃべっているように聞こえるかもしれないが、話しているのは医師ではない。その女性の声は、バビロン・ヘルス(Babylon Health)が開発した新しい人工知能(AI)アプリによるものだ。医師の不必要な事務処理や外来診療の負担を軽減し、患者の待ち時間を短くするために作られたこうしたアプリが、普及し始めている。体調が良くないと感じたら、病院に行く代わりに、スマホを使ってAIとチャットすればいい。

症状に関する助言をグーグル検索するのと同じくらい簡単に得られ、ずっと役に立つ。それがこのチャットボットの発想だ。ネットを検索して自己診断をするのと異なり、こういったアプリは病院で実際に使用されるレベルのトリアージ(治療の優先順位づけ)をする。緊急処置が必要な症状だと判断すれば、その旨を患者に伝える。安静にして消炎鎮痛剤の一つであるイブプロフェンを服用すればことたりるなら、そのように指導する。アプリはさまざまなAIの手法を取り入れて構築されている。ユーザーが普段の話し方で症状を説明できるようにするための自然言語処理能力、巨大な医療データベースから情報を取り出すエキスパート・システム、症状と体調を関連付ける機械学習だ。

ロンドンに拠点を置く「デジタルファースト」の保健医療サービス会社であるバビロン・ヘルスには、大切にしている社訓がある。地球上のあらゆる人が利用できる手頃な価格の医療サービスを提供することだ。バビロン・ヘルスの創業者アリ・パーサCEO(最高経営責任者)は、そのために一番良い方法は、医師に診てもらう必要性をなくすことだという。

診断に確信が持てない場合、アプリは常に、人間の医師によるセカンド・オピニオンを受けることを勧める。だが、アプリがユーザーと医療専門家の間を取り持つことで、健康管理の最前線が変わる。バビロン・ヘルスのアプリが自己治療の方法についての助言を与えるようになると、アプリを利用する患者の半数が、病院に行く必要がないことに気づき、病院の予約を取るのを止めたのだ。

こうしたアプリを提供しているのはバビロンだけではない。「エイダ(Ada)」、「ユアMD(Your.MD)」、「ドクターAI(Dr. AI)」などがある。だが、バビロンは英国国民健康サービス(NHS)と協働して、サービスの運営方法や支払い方法を変える可能性を示してきており、先陣を切っている。2017年、バビロンはロンドンの公立病院自主トラストと一緒に試験的な運営を開始した。症状が急を要さない場合、111に電話をかけるとNHSの助言を受けられるが、その一部をバビロンのAIが担当している。111に電話をかけると、人間のオペレーターが電話に出るまで待つか、バビロンの「NHSオンライン:111」のアプリをダウンロードするかを尋ねられる。

約4万人がすでにアプリのダウンロードを選択した。2017年1月下旬から10月初旬の間に、アプリを使用したユーザーの40%が、医師ではなく自己治療を選択した。この割合は、電話で人間のオペレーターと話した人の約3倍だ。だが、AIと人間のオペレーターが緊急治療を受けるように助言した人の割合は同じだった(21%)。

現在バビロンは、「GPアット・ハンド(GP at Hand:身近な家庭医 )」と呼ばれる英国初のデジタル医師による診療サービスを共同で開始したところだ。ロンドン市民は、地元の医師に登録するのと同じように、同サービスに登録できる。患者は、予約を入れて仕事を休んで医師に診てもらう代わりに、アプリとチャットするか、ビデオリンクでGPアット・ハンドの医師と話せる。多くの場合、診察を受けに行く必要はない。人間の医者は、最初ではなく、最後の手段になるのだ。

GPアット・ハンドは好評だ。最初の2〜3カ月間で5万人が登録し、その中にはマット・ハンコック英国保健相もいた。現在バビロンは、英国全体にサービスを展開しようとしている。このサービスはルワンダでも利用可能だ。バビロンの創業チームの一員であるモバッシャー・バット医師によれば、ルワンダでは、成人人口の20%がすでに登録しているという。カナダでも準備中で、米国や中東、中国でも同様のサービスの提供を計画している。

仕事に追われる医師たち

英国国民健康サービス(NHS)は70年もの間、英国納税者によって支えられ、必要とする人たちに医療を無料で提供してきた。しかし、情勢はひっぱくしつつある。2世代前の英国人口は5000万人で、全体の平均寿命は60年を大きく超えてはいなかった。現在の英国人口は6600万人に達し、そのほとんどが80歳代まで生きると予測されている。このことが、これまでも決して潤沢であったことのないNHSの財政状態に追い打ちをかけている。

英国民は、平均して1年に6回、医師の診察を受ける。これは10年前の2倍の頻度だ。英シンクタンクのキングズ・ファンドの調査によれば、2011年から2015年にかけて、家庭医(GP)1人当たりの平均患者数は10%増加し、電話または面会による患者の診察回数は15.4%増加した。2016年の英国医師会(BMA)の調査では、家庭医の84%が、自分たちの労働が「管理不能」または「過度」だと感じており、そのことが患者への「診察の質に直接的な影響」を与えているという。

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